2013年3月27日水曜日

チーム成長に活かす研修ゲーム


チーム成長に活かす研修ゲーム」より


 最近、研修ゲームに関する問い合わせが非常に多くなっています。従来は研修の補助的教材として扱われていたのですが、最近の問い合わせ内容を見ると、研修ゲームを主たる教材として活用し、そこから得られた気づきや発見そのものを研修の学習成果ととらえる傾向になっているようです。研修ゲームは、その名が示すようにゲームという「遊び」の気楽さがありますが、研修ゲームをゲームだけで終わらせてしまうと、「楽しかった」というだけで、研修ゲームからの気づきや発見といった学習効果が得られません。ここでは、筆者がファシリテータ(進行役)として実施してきた研修ゲーム体験を交えながら、研修ゲームの「適切な進め方(ファシリテーション)」について考えていきたいと思います。


研修ゲームへの期待

研修ゲームに期待することは、架空の課題への取り組みから現実の職場で起こりうる問題の本質を整理することだと考えられます。メンバーの葛藤やコミュニケーションの問題等は、目の前の業務や改善目標の達成等への意識が優先され、現実の職場では見逃されたり、気がついているものの、面倒くささや、課題が優先ということで後回しにされがちです。そうした人間関係的な問題
の本質を、架空の課題で擬似体験することで整理できることが大きな効果だと思います。


 現実の職場で、改善目標やそれに向けてのサークル活動が思うように進まない要因のひとつにメンバー間のコミュニケーション、リーダーシップの問題、目標設定から達成に至る過程での個々のメンバーに起こる葛藤や意思統一の不十分さなどが上げられます。研修ゲームで体験する問題は職場で起こる問題と本質は変わらないものの、実際の問題に比べ複雑さがなく、気楽に向かい合うことができる点が長所と考えられます。同じ職場での勉強会であれば、そのまま現実の職場での改善活動につながり、個人と組織(チーム)への働きがけが同時にできるという大きなメリットが期待できます。研修ゲームはまさに体験学習(図表1)のツールの1つです。やることが目的ではなく、その体験をみんなで討議することで職場改善に結びつけることに他なりません。

図表1

研修ゲームの実際

 研修ゲームの実例として、「ヴェロン記念塔#」の事例をご紹介しましょう。 「ヴェロン記念塔」は、参加者が小グループに分かれて、各メンバーが自分の情報カードを口頭で伝え合いながら情報を整理して、与えられた問題を解くものです。この研修ゲームのおもしろさは、情報に個人の先入観や見解がついてまわることで、それによってメンバー間の話がややこしくなり、課題解決が難しくなったりします。30分間ほどのグループ討議の中で葛藤やフラストレーション、ストレスなどが起こりますが、そのプロセスを経てメンバーたちは情報収集の仕方、リーダーシップやコミュニケーションのあり方、グループでの問題解決法などを学んでいきます。

 「ヴェロン記念塔」の進め方は、図表2の通りです。各グループ5~6名のメンバーにトランプのように5~6枚のカード(情報)が配られます。ひとりひとりが持っている情報が少ないので、堂々巡りや、一部の人の暴走なども発生し、解決から遠くなったりします。そのもたもたした解決行動がメンバーにいろいろな気づきや学習の機会を提供します。さらに、研修ゲームの中での気づきや発見をゲームの後に続く反省討議で拾い上げることでさらに学習効果が上がります。反省討議ではゲーム前に選ばれた観察者の観察記録が貴重な情報となりますが、観察者は研修ゲーム中のメンバーの言動や表情、リーダーの発生の仕方、討議の進め方など、気がついたことを記録し、後の反省討議に役立つデータを集める役割を持ちます。反省討議の進め方は図表3に紹介します。このような質問をファシリテータが投げかけることによって、メンバーの気づきや発見を全員で共有し、共有することで発見をいっそう掘り下げることもできます。

図表2

目的 

  • グループ内情報交換プロセスを学習する。 
  • グループ・リーダーシップを学習する。 
  • 集団問題解決能力と意欲の向上促進等々を状況対応リーダーシップ®との関連で学習する。 
参加人数  カード1セットで5名から7名 
所要時間  約90分 

課題  
古代都市ウェステリアで女神ヴェラを祭ったヴェロン記念塔が建てられた。その建設にかかった日数と曜日を解明する。 

ルール 
グループ内で、配布されたカードの情報を口頭で交換し合いながら、制限時間内に正解を導き出す。但しメモをとったり、カードを見せあったり、交換することは出来ない。 

進め方 
  1. 演習の概要、課題、ルールを説明する。 
  2. 各グループで演習の観察者を1名選ぶ。 
  3. 観察者を集め、観察者の役割を説明する。 
  4. 観察者はグループに戻り、30枚のカードよくシャッフルし、トランプと同じようにメンバーに配る。 
  5. 30分経ったら解答が出なくても演習を終了し、観察者を中心に反省討議シート(表1)に従い反省討議を開始する。 
  6. 反省討議の結果は模造紙などにまとめて、全体で発表する。 
Copyright by CLS Japan, Inc. All rights reserved.


図表3

反省討議の手引

  • だれが最も活発に討議に参加しましたか? だれが最も不活発でしたか? 
  • 討議中、メンバーのどのような行動が課題の解決に役立ちましたか? 
  • 討議中、メンバーのどんな行動が課題の解決の障害となりましたか? 
  • 討議中の感情の動き(意気込み、高揚感、不快感、怒り、当惑、狼狽、等)を、差し支えない範囲で発表し、討議して下さい。 
  • こうした感情の動きに、グループ・メンバーの発言が関係していましたか?また、これらの感情の動きは、討議進行に役立ちましたか?それとも障害となりましたか? 
  • 感情の動きを抑制、促進する上で、どのような言動が有効でしたか? 
  • どのようなことをこの演習から学びましたか?主なものを3点挙げて下さい。

Copyright 1998 by CLS Japan, Inc. All rights reserved.


 筆者は数多くこの研修ゲームをファシリテートしてきましたが、それらの体験では、次のような気づきや発見が出てきました。
  1. リーダーの存在が不可欠: この研修ゲームがうまく行くためにはリーダーの存在が必要です。メンバー各人の持っている情報を整理統合し、分析することが不可欠だからです。しかし、リーダーはあらかじめ決めずに自然発生的に出るのを待ち、ゲーム後の討議で誰がどのようにリーダーシップをとったかを検討します。
  2. フォロアーの取り組み方: リーダーが決まったら、残りのメンバーはそのリーダーに協力して、それぞれの役割を果たさなければなりません。この研修ゲームではリーダーシップと同時に、フォロアーの取り組み方も学ぶことができます。
  3. チームワーク: チームワークを必要とする仕事の場合は、見つけた必要情報を一人占めせず、チーム内で共有することが大切です。ゲーム中、たった一つの情報が抜けていたために討議が違う方向へ行ってしまうこともあります。また、自分なりに不必要情報と判断して、メンバーに伝えなかったところ、他の情報と関連させると必要情報だったということもよくあります。
  4. 必要情報の選別: 情報の中には問題を解くのに不必要な情報も混じっています。実際の仕事でも生活でも、無数の不必要情報があります。数多くの情報の中から、必要な情報を見つけなければなりません。
  5. 必要情報の確認: このゲームでは、30枚の情報カードの中に必要情報はすべて含まれています。したがってそこにあるデータだけで解答します。しかし、現実の職場では必要情報がすべて入手できたかどうかはわかりません。重要な情報が抜けていると大変な影響があるということも留意すべき点です。

 筆者が実際に観察してきて、非常に興味深かったのはリーダー発生のメカニズムです。リーダーについては、グループの中にはあらかじめ決めておいたり、別の演習でリーダーをやった人が、リーダー役を務めるようなこともあります。しかし、ほとんどのグループでは、自然発生的にリーダーが生まれてきます。通常、複数グループで実施するので競争心理が働きます。すると、競争心の強い人が他のメンバーを引っ張るような状況が出てきます。なかには、メンバーの支持を得られないリーダーも発生しますが、そういったリーダーに共通していることは一人で走ってしまうことです。他のグループよりも早く正解にたどり着きたい一心からと考えられます。その結果、メンバーへの気配りが不足し、メンバーの情報や意見をうまく吸い上げることができず、正解を出せないという事態になってしまうのです。まさに、上記「③チームワーク」の悪い例といえます。しかし、こうしたメンバーの多くは、反省討議で自分の思いや失敗をメンバーに表明します。たとえば、「競争心から一人で突っ走ってしまった」などというように。これも研修ならではの効果といえます。

「③チームワーク」の例では、別の例もあります。必要情報を一人占めするつもりは毛頭ないのだが、グループ内での発言が不得手で、討議の中でいつまでもその情報を他のメンバーに伝えない人が出ることもあります。その結果、チームが必要情報を共有できないまま、解答を出せないということも起こります。これは、「②フォロアーの取り組み方」にも関係すると思います。研修ゲームでは、このような様々な気づきを反省討議の結果や感想から整理することができます。

先日ある官庁の若手職員向けに行った研修でも「ヴェロン記念塔」を使いましたが、その反省討議では、図表4のような意見や感想が出てきました。「自分が分かっていることでも他人が分かっているとは限らない」や「分かっている人だけで進んでしまって、おいていかれているという気持ちになった」という感想は、リーダーとメンバーの意思疎通のギャップや、実際の職場でのリーダーの役割に対する意識などを連想させます。また、「解決の方針や道筋を立ててくれる人がいたのでうまくいった」等は、リーダー行動のポイントを示していると言えます。こうした感想をさらに掘り下げることで、職場におけるリーダーと部下(フォロアー)との関係の理解や改善行動のヒントにつなげられる可能性が出てきます。

 また、注目したい感想のひとつに、「最初、『むずかしい』とあきらめの気持ちになったが、他の人の話を聞いているうちに出来そうな気がしてきた」というのがあります。この気持ちは、「目標による管理」のポイントである「チャレンジングで、部下が達成可能と思える目標設定をすべき」ということに通じることだと思います。こうした感想が出ることで、リーダーシップのポイントや目標設定の手掛かりなどの解説がしやすくなり、理解も深まります。何より、参加者が研修ゲームの中で実感として学んでいるので、納得性が高いといえます。それが、研修ゲームの大きな効果だと思います。

図表4:「ヴェロン記念塔」意見と感想

  • 分かっている人だけで進んでしまい、おいていかれているという気持ちになった。
  • 競争心から一人で突っ走ってしまった。自分ひとりで何とかしようと思ってしまった。
  • 最初「むずかしい」とあきらめの気持ちだったが、他の人の話を聞いているうちに出来そうな気がしてきた。
  • 局面局面でリーダーが変わった。
  • 確認を怠ると解決の障害になると痛感した。
  • みんなが勝手に話し始めると、結局どうどう巡りとなり、まとまらない。
  • 思い込みに捉われ過ぎた。
  • 解決の方針や道筋を立ててくれる人がいたのでうまくいった。
  • 自分の考えを口に出せないことに気付いた。
  • 自分が分かっていることでも他人が分かっているとは限らない。そのせいで「全員で協力する」ということがおろそかになってしまった。
  • 自分は分かっているのに、そうでない人に説明するのは面倒なこともあるが、確実に事を進めるには、確認をするのが近道である。
  • みんながそれぞれの考え方を持っている中で、うまくまとめていくことは大変である。
  • 一人一人の考えや情報が何らかの形で他の人に影響を与え、役立つことがある。
  • 組織やチームでひとつの目的を持って働くには、自分の持っている情報を一人で抱えてしまうのではなく、必要な時に必要な人と共有できるように心掛けたい。
  • 相手が話しやすいように気を配ることが必要だと気付いた。
  • チームワークを発揮させるためには、職場全体が良い雰囲気であることが必要であることを痛感した。
  • チームで討論する時には、リーダーが存在した方がスムーズに事が運べると感じた。
  • 相手に不快感などを与えることなく、確実に情報を受け取ることの重要性を感じた。

チームの成長

 研修ゲームのプロセスを観察すると、チームが課題達成していく過程で、チームとして成長している状態を見ることができます。チームの状態は「チームレディネス#」として「チームの目標に対する取り組み度(レディネス、readiness#)」で表すことができます(図表5)。チーム全員が、このメカニズムを理解すると、リーダーとの関係、リーダーの苦労なども整理でき、結果的に組織やチームの活動にプラスになると考えられます。



研修ゲーム開始当初は、各メンバーが何から手をつけてよいのか、チームの目標の認識がばらばらで方針も見えない状態が発生します。ほとんどのグループで、各メンバーは配布されたカードを見ているだけで、誰かが第一声を発生するのを待っているかの様です。ゲーム開始後1、2分はほとんどのグループが静かです。「何をどうすればいいんだろう」、「他の人はどんなカードを持っているんだろう」などいろいろの思いが頭の中にあるのでしょうが、それを言い出せないでいるようです。なかには、全くの指示待ちを決め込んでカードにもあまり関心を示さないメンバーも散見されます。この状態はR1です。

しばらくすると、メンバーの中の一人が「とりあえず各々のカードを順番に読み上げてみない」とか「出す解答は建設期間と完成した曜日だよね」などの当面の方法やゴールの確認などをしたりします。それにより暫定的なチームの目標なり方針が一応決まります。そして、メンバーが順番にカードをぼそぼそと読み始めます。また、最初に口を開いたメンバー以外で、自分のやり方のほうが良いのではないかという思うメンバーが出てきます。順番にカードを読み上げている途中で「順番に読んでも仕方ないんじゃない」、「おれもそう思う」、「関連した情報を整理していく方が早いんじゃないの」等の異議を挟むメンバーが出てきます。自然発生的であっても、あらかじめ決めたとしても、リーダー役を担う人が登場し、チームの形態が少しづつ整ってきたものの、まだ全員が一丸となるには程遠く、リーダーがリーダーとしての機能を完全には発揮できず、討議が分散してしまう状況です。この状況はレディネスがR1からR2へ変化する段階といえます。

この状況は、討議が行ったり来たりでなかなか先に進まず、傍で観察していてもっとも興味深いです。最初にやり方の提案をしたメンバーが、他のメンバーを引っ張る努力をし始めます。「建物の寸法の情報を持っている人は他にいませんか」とか、「○○さん、何か不明な点はありますか?」、「やらなければいけないことは、まずは建物に使われた石の数を求めることですよね」などなど、グループのやるべきことをメンバーに確認し、メンバーの意識を目標に集中させる努力をします。展開によっては、リーダーが交代することもあります。ただ、幸いにして目標が一応明確になっており、メンバーのやる気が目標に向かい始めているので、多少停滞することはあっても、チームが分裂したりすることはありません。このようにメンバーが自分の意見を言い始め、グループに混乱が生じる状況はR2の状態と考えられます。 

 研修ゲームが進むうちに、リーダーとフォロアーの間で共通の目標(目的)の認識が高まり、フォロアーのレディネスが上がってきます。しかし、フォロアーは目標意識は高いものの、まだ不安を隠せない様子を示します。この状態はR3と考えられます。この段階では、全メンバーがリーダーの指示に従って統制のとれた解決行動をとるようになっています。グループ内では活発な議論が繰り広げられます。しかし、それはR2の時のような方針や方法に対する意見の食い違いの議論ではありません。さらによく観察すると、メンバーの中には、まだまだリーダー頼りの人が散見されます。そうしたメンバーは討議には参加しているものの、自分が先頭に立つというような自信はないようです。 

R3の段階では、グループ内のコミュニケーションは双方向であるものの、それはリーダー対各メンバーという形態で、メンバー同士の双方向コミュニケーションは少ないと言えます。ほとんどの意見交換はリーダーを介して行われている状況です。そうした状況下でも、例えば、「では、○○さんと△△さんとで石の数を出してもらえますか?さっきのやり方で大丈夫ですから」や、「曜日は□□さん、確認出来ますよね」など、リーダーが意識してフォロアーに任せるよう仕向けることで、いつしかリーダーが居なくてもメンバーだけで目標に向かうようになります。この状態はR3からR4への移行段階といえます。

 R4の段階では、リーダーとメンバーが同レベルになれるかどうかで成果も変わってくることもあります。事実ゴールするグループの多くは、ゴール間際では、誰がリーダーか分からないくらいグループが一体化しているという感じです。具体的に観察できるメンバーの言動は、「それはカードに書いてあったんじゃない」とか、「石の大きさは1立方メートルです」、「じゃ、高さ×幅×奥行きの体積がそのまま石の数だね」などで、必要最小限の発言だけ交わされています。

 以上のように、研修ゲームという模擬体験を通して、リーダーもメンバーもチーム全体の成長プロセスを体験することができます。この点を反省討議できっちりと共有することは、職場のチーム活動の成長に大きな効果をもたらすと考えられます。

最後に

 研修ゲームには様々な種類がありますが、次のように分類されることもあります#。
  • 相互理解を促進するゲーム
  • コミュニケーションを考えるゲーム
  • チームワークを醸成するゲーム
  • 創造性開発・問題解決を学ぶゲーム

 しかし、研修ゲームは、繰り返しますが、リーダーもフォロアーも、そしてファシリテータすら新しいことに気づき発見するツールです。こういった分類は、一応の整理ということで、実際に研修ゲームを行うと、ファシリテータが意図しなかったアウトプットが出てくることがあります。ファシリテータも気づき、発見し、そしてそれを反省討議で共有することで、参加者たちも気づきや発見を深く議論することができます。

 研修ゲーム導入のコツとしては、比較的簡単で導入しやすいものから試し、徐々に複雑なものにチャレンジするのが良いと考えられています。相互理解を促進するものや、コミュニケーションを考えるものは比較的導入しやすいと言われています。研修ゲームは、簡単に実施でき、しかも、ファシリテータ、リーダー、フォロアー、観察者など、すべての参加者が多方向にインプットとアウトプットを繰り返しながら学習できるプロセスを提供します。一人のスーパーマンからではなく、チームの全メンバーのインプットや相乗効果が強力な武器になる現代において、研修ゲームに大きな関心が寄せられているのは、このためかもしれません。

参考文献

  • 「行動科学の展開新版」P.ハーシィ他著、山本成二・山本あづさ共訳、生産性出版、2000
  • 「研修ゲームハンドブック」山本成二・美濃一朗共著、日経連広報部、1991
  • 「状況対応リーダー」P.ハーシィ著、山本あづさ訳・山本成二監修、CLS出版部
  • S.L.研修ゲーム「ヴェロン記念塔」CLS出版部制作
出所:
月刊誌「TPMエイジ」2003年6月号(6月5日発行)(社)日本プラ
ントメンテナンス協会